携帯電話と家族構造の変化

  小学生が携帯電話を持っているのも珍しくない時代になってしまいました。若年層が携帯電話を持つことの問題点について,「犯罪に巻き込まれる危険性」や「有害情報に接する機会が増える危険性」がよく指摘されています。これらも非常に大変な問題です。しかし,「携帯電話が家族の機能にどういう影響を与えるか」という視点からその危険性が指摘されることは少ないようです。今回はそのことについて考えてみたいと思います。

 中高校生で,ひまさえあればメールの送受信をしている,という生徒がけっこういます。そういう生徒に話を聞くと「携帯を持っていないとすごく不安でたまらない」といいます。いわゆる「メール依存」の状態といっていいでしょうか。これが大人であれば,そういう状態に陥ることはあまりありません。青年期は「家族外の人間関係を構築し,それによって社会性を発達させる」という発達上の課題があり,自然に「家族外の人と交流したい」という欲求が生じるからだと思います。

 一昔前の青年期には,せいぜい固定電話くらいしかなく,いったん家に帰ってしまうと,そう簡単に友達に連絡はとれませんでした。それに比べると今は「連絡を取りたい」と思ったらすぐにメールで連絡がとれてしまいます。今の若者の中では「友達は常につながっているもの」という感覚になっているのではないでしょうか。40代以上の年代にはちょっとその感覚は理解できにくいと思います。

 では,「常に友達とつながっている」という状態は,青年期の子どもたちの発達にとって望ましい状態なのでしょうか?

先に書いたように青年期には「家族外の人間関係を構築し,それによって社会性を発達させる」ということが大きな課題の一つになります。そのためには,家族外 の人間関係をさまざまな局面で経験することは非常に大切です。ただ,「家族外の人間関係を経験する」ということは楽しいことばかりではありません。家族外 の人間関係とは,家族内ほど保護的でも養育的でもないものです。当然どんなに良好な友人関係であっても,実は傷ついたり,高い緊張を経験したりしているも のです。むしろ,そういう経験をし,それを乗り越えていくことが社会性の発達という課題にとって重要だともいえます。

 では,その傷ついたり高い緊張を抱えたりした心はいつ,どこで癒されるのでしょうか?それは「家族」の中です。つまり家族外でさまざまな人間関係を経験す ることで訓練が行われ,疲れた心は家族内で癒され,また家族外で訓練をする,ということがうまくバランスをとって繰り返されることが子どもの発達には不可 欠というこです。昔のように一旦家に帰ると基本的に家族内でしか交流が行われないという状態であれば,子どもは高い緊張から解放され,癒されるということ が自然になされていたわけです。ところが,現在のように「常に友達とつながっている」ということは「常に緊張が持続している」ということでもあります。子 どもたちは「傷ついた心を癒すひまがない」状態になっています。このことが,子どもたちが高いストレスを抱え,うつ状態などの陥りやすくなっている一因だと思われます。

 また,どんな人間関係であれ,基本的に「交換している情報の密度が高い相手が親密な相手」になるものです。「家にいても友達とつながっている状態」であれ ば,相対的に「親子のつながり」は希薄になっていきます。つまり,携帯電話は使い方によっては家族内の関係を希薄にし解体への向かわせる危険性を持ってい るということです。

 では,どうすべきか。「ある程度の年齢になるまで持たせない」というのも一つの選択でしょう。持たせるのであれば,「何らかの形で利用制限をする」必要があります。たとえば「夜20時 以降は使わないなどルールを決めて,それ以降は親が預かる」というようなことが必要です。高校生であっても,自分で管理することは非常に難しいと思いま す。それだけの自己コントロールができる子どもはほとんどいません。できないことは要求すべきではありません。ダイエットが必要な人の目の前に大好きな甘 いものをおいて「絶対食べるな」と命令しているようなものです。せめて目の前から隠してあげることは必要ではないでしょうか?

 携帯電話は古い世代には存在しなかった新しいツールであるだけに,誰もその危険性を認識できていなかったと思います。使い方によっては家族崩壊を助長する ものにもなり得るものです。かといって今更なくすこともできません。家庭内で使用をうまくコントロールすることで新しい社会への適応を可能にしていく工夫 が求められています。また携帯電話会社でも,「通話時間」や「メールの相手や回数」などを制限できるような機種の開発なども検討してもらえるとありがたい と思います。

2010.3.1(豊永)

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