子どもたちに安心できる空間を

カウンセリングで出会う高校生に「毎日の生活の中で一番安心できる時間・場所はどこ?」と訊ねてみます。多くはこういう答えが返ってきます。「自分の部屋に一人でいるとき」「自分の部屋で寝ているとき」「自分の部屋で音楽を聞いているとき」などです。「リビングで家族一緒にいるとき」と答える生徒はほとんどいません。

不登校になる生徒の多くにとって学校という場が安全で安心できる場にはなっていません。だから学校という場にいられなくなっていると考えられます。そして実は、多くの場合家族という空間も安全で安心できる場ではなくなっているのです。不登校にはなっていない生徒に訊ねても「家族と一緒にいるときが安心できる」と答える生徒はほとんどいません。今、子どもを守るべき家庭が十分子どもを守れない状態になってしまっているようです。

どうしてそんな状態になってしまっているのか。一つの原因として

核家族化によって家族の構成員 が減ったことと、社会全体のストレスが増大していることがあると思います。 

家族の重要な機能の一つは社会 から持ち込まれてくるストレスから家族構成員を守り、安全で安心な空間を提供することです。これは、湖がもっている自浄能力とよく似ています。湖には動 物・植物の死がいや家庭排水などの有機物が流入してきます。それらは湖の中にいるバクテリアなどの分解者によって無機物にまできれいに分解され、植物や植 物プランクトンの光合成に再利用されています。これが自浄能力です。湖自体が大きく、流入する有機物の量が少なければ無理なく分解され、湖は豊かな生態系 を維持することができます。ところが小さな湖に多量の有機物が流入してしまうと、湖の自浄能力を超え、分解できない有機物が湖底に溜まり、ヘドロになって しまいます。腐敗菌が繁殖し、水は酸欠状態となり、魚が住めなくなってしまいます。

戦後、日本の家族は急速に核家 族化しました。つまり家族の構成員は大幅に減少しました。同時に社会全体のストレスは年々増加傾向にあります。大人2人だけの家族で社会から持ち込まれる ストレスを消化し家庭内に安全で安心な空間を子どもたちに提供することは非常に難しくなっているのではないでしょうか。

エヴァンゲリオンというアニメ が若者に圧倒的支持を受けています。中学生の主人公たちが、大人たちの代わりに正体のよくわからない敵と闘わされるという話のようです。こういう話がヒッ トするということは、私たち大人が子どもたちを十分保護できず、社会からくる過酷なストレスにさらしてしまっているという現実を象徴し ている気がしてなりません。

決して核家族という形態が悪い わけではありません。いろいろなメリットもあったはずです。しかし、家族形態の変化にはこういうリスクもあることは誰も予想していなかったということで しょう。今私たちが考えるべきは、家族形態の変化にともなって生じているリスクを自覚し、それを回避して家族内に安全で安心な空間を再度確保するためには どうするべきかということだと思います。

例えば、祖父母世代の近くに住 む、もしくは二世帯住宅などは、その工夫の一つでしょう。親世代がストレスマネジメントの方法を学んでストレスに対抗する能力を高めることもその一つだと 思います。社会全体としては、高まっているストレスを低減させるにはどうすればよいかを考える必要があるでしょう。これは政治や行政レベルで、またみんな で考えるべき問題です。

いつの時代にも家族が抱える問 題はあったと思います。現代日本には現代日本特有の問題があると思います。私たちは今この時代においてできる精一杯のことを試みていくしかないのではない でしょうか。

2010.7.12(豊永)